「イギリスさんイギリスさん、ちょっと意見聞きたいんですけどいいですか?」
それまでずっと手の中の毛糸と編み棒に集中していたセーシェルから話しかけられて、紅茶を飲みながら
ぱらぱらと本を捲っていたイギリスは顔を上げた。
今日は特に差し迫った仕事もないし、特別な日なのでイギリスもセーシェルを雑用に呼んではいないのだが、
何故か毛糸と編み棒の入った袋を抱えてやってきたセーシェルは帰るまでいてもいいですか?と聞くと返答も
待たずにストーブの前に陣取って、何やら編み物を始め出した。どうやらマフラーらしいそれは赤と青と白の三色で
構成されていて、首を軽く三週はできそうに長い。ロングマフラーは女生徒たちが好んでよく使っているが、電車の
ドアに挟まれそうで危ないなとイギリスなどは思う。大体そんなに何重にまかなくても十分温かいのだし、むやみ
やたらに長くしても毛糸を余分に使うだけではないのだろうか。
常々そう思っていたので、セーシェルに「これ、どう思います?」と手編みのマフラーを掲げられたときは
長すぎるんじゃないかと返した。セーシェルはそれを聞くといくらか残念そうにそうですかと言うと、いきなりマフラーの
端の毛糸を掴み、かなりの長さまで編まれたそれをほどき始めた。
「お、おい?!」
するするする、とまるで手品のようにそれまで平面を保っていたマフラーがほどけて毛糸に戻っていく。イギリスの
声が聞こえていないかのように糸を引っ張るセーシェルの手つきにはここまで編むまでにかかっただろう時間と労力
を気にする様子はなく、みるみる間にマフラーはその長さを縮めていく。
まさか自分の一言でこんなことになるとは思ってもいなかったイギリスは狼狽してしまい、結局何もできないまま
マフラーが元の半分ほどの長さになったところで、ようやくセーシェルが手を止めた。こんなもんですかね、と小首を
傾けて訊ねられ、それでようやく固まった喉が音を出した。
「お、お前馬鹿か?!何で俺の一言で編んだもんほどくんだよ!」
「だってイギリスさん、長すぎるって言ったじゃないですか」
すっかり短くなったマフラーを両手に持って口をとがらせるセーシェルに、だから!とイギリスは怒鳴るように言った。
「それは俺の意見であって、別に命令でも何でもないだろ?!」
「でも長いより短い方が好きなんでしょ?」
「それは・・・そうだが・・・」
じゃあ問題ないですよ、とセーシェルが笑って背伸びをし、ふわりと首に柔らかいものがかけられた。視界に映る
派手な色使いに、それが今まで彼女が編んでいたマフラーだと気づく。末端の始末がまだされていないマフラーから
赤い毛糸が一本、床に転がった毛糸玉へ伸びていた。
思いがけない展開に目を丸くするイギリスに、セーシェルは赤い毛糸を指に絡ませるとにっこり笑った。
「メリークリスマス、イギリスさん」
恋人巻きはまた今度にとっときますね、と続けられた言葉に彼女が長いマフラーを編んでいた理由がわかった。
(赤い糸の代わりに)
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赤青白って目に痛い気がします。
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