「シー君は国になって何がしたいんですか?」
口をついて出たのは純粋な疑問から生まれた問いだった。造り主と同じ髪の色をした子どもが
訊ねられてきょとんとした顔をする。国どころか地方にすらなっていない子どもは今までそんな質問を
されたことがなかったのか、地面に届かない足をぶらぶらさせながら目の前でうーんと唸っている。その
様子をかわいいなあと思ってしまうのは国民達が言うところの母性本能というやつなのか、それとも
子どもがあの海賊紳士に似ているからなのか。眉のあたりなんかそっくりでちょっとかわいそうになった。
但し、中身は生みの親よりもその弟に似ている。あの似非紳士に育てられるとああいう性格にでも
なるんだろうか。だとしたら嫌なジンクスだ。わたしあの人に育てられなくてよかった、有難うフランスさん。(変態だけど)
そんなことを考えているうちに、一応の答えを出したらしい子どもがえーとですね、と話しかけてきた。
うん、と焦点を彼に戻して話に耳を傾ける。
「シー君は、国になったら色々やりたいです。会議に出て沢山発言したり、国交を結んでバリバリ
働いてバリバリ遊ぶのです。国民ももっと増えて、大きな国になって、みんながシー君は偉いって
言うのです」
それでイギリスの野郎もシー君に参ったって言うのです!ざまーみろです!と子どもは握りこぶしを作って
頬を赤くして語った。純粋に未来を夢見る子どもの顔だなあとセーシェルは思った。それは少し前までの
自分の姿であり、二百年前の超大国の姿だ。早く大人になりたくて精一杯背伸びしていた小さな子ども。
輝く未来を信じきっているシーランドは、国になったために背負わなければいけない苦労があるなんてきっと思い
もしないのだろう。
手をのばして金色の髪を撫でると、シーランドはきょとんとした目でセーシェルを見上げて、それからどうしたですか?
と聞いてきた。イギリスにそっくりな海の子どもは彼の兄よりずっと愛想がいい。これくらい素直になってくれればなあ
と思いながら、セーシェルはやわらかい声で子どもに話しかけた。
「シー君は、早く大人になりたいんですね」
「なりたいのです!」
「でも、もう少し子どものままでもいいと思いますよ?」
不自由で息苦しいけれど、そこにある優しい庇護の手は離れてしまえば失われる。それを知っていたところで自分や
あの青年が独立をやめたかどうかは分からないけれど、もう取り戻せない時間に胸が痛むのは確かで、自分たちが失くした
ものを持っているこの子どもを羨む気持ちがあるのも事実だった。
大人の方がいいのです!と反論する子どもにかつての自分の姿が重なって、なんだか無性に切なくなる。手を離しても
けして遠く離れてしまうわけではないのだと、あの頃はそう信じていた。
(海と青の子供)
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島国と島国未満。
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